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下手の横好きではじめたエッセイ風のブログです。平凡な日々の中で感じたことを少しだけエモく綴っています。ジャンルはニュースや音楽など。

ドキュメンタリーは感動を起こすための呼び水ではない

闘病生活を取材したドキュメンタリー番組や実話をもとに作られた映画に感動できる作品は多い。

僕は感動する作品は好きな方だが、あまりそれらが得意ではない。

フィクションならともかく、たとえ他人事であっても、胸を絞めつけられるような辛い事実を見るのが怖い。

テレビのチャンネルを回したときに意図せずそれらが映ったりするようなものなら、たとえ周りの家族から反対されてでもまたチャンネルを回す。

 

本当は・・・それぐらい苦手なのだ。

 

伝説の男…ステージの上で命を燃やし続けた男の記録

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(c)テレビ東京「家に、ついて行ってイイですか?」

 

イノマーというバンドマンを知っているだろうか。

彼はいわゆる売れている有名なミュージシャンではない。

邦楽のバンドに関して、僕は人より少しだけ詳しい自信があるが、つい先日まで彼の存在を知らなかった。

かろうじて彼のバンド名ぐらいは聞いたことがあるような気はしないでもないが、彼の名前も彼の歌う曲も聞いたことがないのは確かだった。

 

じゃあ、なぜ僕が今日、イノマーについて書いているのか。

その理由から説明していく。

 

性春パンクバンド、イノマー

伝説のバンド「オナニーマシーン」のボーカル・イノマー。

実は彼はもうこの世にはいない。

2019年12月19日  2:50

癌との闘病の末、イノマーさんは永眠した。

 

紹介のために彼の作品を貼っておく。

 

イノマーの独り言

イノマーの独り言

  • 発売日: 2017/03/01
  • メディア: MP3 ダウンロード
 

 

 

オナニー大図鑑

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「家、ついて行ってイイですか?」

先日、自分のフォローしているインフルエンサーのたちがテレビ東京のバラエティ番組についてツイッターを投稿していた。

 

 

 

テレビ東京のバラエティ番組とは「家、ついて行ってイイですか?」のことである。

残念ながら僕の住むローカルではテレビ東京の電波が入らないのだが、関東在住の方であれば知っている割合は高いはず。

 

終電を逃した人に、タクシー代を払うので「家、ついて行ってイイですか?」とお願いし家について行く完全素人ガチバラエティー。誰もが皆、一見フツーでも、ぜんぜんフツーじゃない人生ドラマを持っている!そんな素敵な市井の方々の人生譚を覗いていきます。

 

ある日、「家、ついて行ってイイですか?」のスタッフが東京の下北沢で、ひとりの女性に声を掛けた。

彼女の名前はヒロさん。彼女はイノマーさんのパートナーで、偶然にもイノマーさんの葬儀が行われた日の夜のことだった。

それにも関わらず、彼女は少し迷った後、番組からのお願いを快諾してくれた。

ヒロさんとイノマーさんが一緒に暮らしていた部屋に着くとインタビューは始まり、ヒロさんの口からイノマーさんとの思い出が少しずつ語られていく。

ヒロさんの話によれば、2人が一緒に過ごした半分以上の時間は闘病の日々だったらしい。

 

ヒロさんのツイッターにはこちらの投稿が固定されていた。

 

 

番組は通常であれば、部屋でのインタビューで終了する。

しかし、映像はイノマーさんの一周忌の様子に切り替わっていった。

そこからはイノマーさんが亡くなる瞬間までを密着したドキュメンタリーへと続いていく。

 

実は同じテレビ東京内にイノマーさんと深い親交のある上出遼平さんというディレクターがいた。

上出さんは番組とは別にイノマーさんの映像を撮り続けていたのだ。

 

こちらは上出遼平さんの投稿していた写真。

 

2つのVTRでつながった番組は多くの視聴者に感動をもたらすことになる。

2020年1月6日の放送された番組はSNSで拡散され、ツイッターは国内にとどまらず、世界でもトレンド1位になるほど話題になったらしい。

その後、視聴者から「もう一度見たい」との声が殺到したため、先月末の2月28日に再放送が行われ、TVer(ティーバー)にて2週間限定の配信が行われた。

先程のインフルエンサーたちの投稿はこの番組の配信最終日を知らせたものである。

 

そして、インフルエンサーたちが勧めてくれたように、僕も番組を見て、他の多くの方にもこの番組を見て欲しいと感じた。

もっと早く知っていれば、配信中に記事を書くことができたのだが、今はそれが悔やまれる。

 

しかし、また再放送される可能性は十分にあり得る。

この記事を読んでくれている方々に少しでも興味を持っていただけるよう、ここからは僕の個人的な感想を紹介させていただきたい。

 

ドキュメンタリーの意義

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冒頭で書いた通り、僕は闘病生活を記録したドキュメンタリーは苦手だ。

自分の身に置き換えて考えるとすごく怖くなる。

病気は他人事ではない。いつ自分や自分の大切な人が同じ病気になるかはわからない。それを一瞬でも想像したくないからだ。

それに、もし番組のなかに視聴者を感動させるための不自然な演出を感じてしまったら、気持ちが萎えてしまうかもしれない。

たぶんドキュメンタリーと呼ばれるものにそういうものはないんだろうけど、製作者側の想いとは裏腹に、自分がそう受け取ってしまったら、病気と一生懸命戦っている主人公たちに申し訳ない気がする。

 

だから、本来なら見ないはずの闘病のドキュメンタリー番組であったが、今回に限っては見てしまった。

インフルエンサーたちが薦める理由を知りたかったし、番組紹介に書かれた「伝説のバンドマン」というリード文に惹かれてしまった。

僕はミュージシャン、とりわけバンドマンという職業に弱い。

 

だけど、「家、ついて行ってイイですか?」はイイ意味で僕の予想を裏切ってくれた。

 

イノマーさんが痩せ細っていく姿やボーカルなのに声が出なくなってしまう様子を見るのは痛々しかったし、闘病の日々が間違いなく壮絶だったのは誰が見てもわかる。

けれども、「声が聞こえているフリをしてください」とファンに声を掛ける彼のユーモアや、周りの人を気遣う優しさが、見る人の痛みを和らげてくれていた。

イノマーさんと、友人やバンド仲間たちとのやり取りを見ていても深刻な現実を前につい心がほっこりしてしまう。

人気者だった彼にはたくさんの仲間がいて、サンボマスターや気志團、ガガガSPなどの有名なバンドも多くお見舞いに訪れていた。

 

中でも印象的だったのは、江頭(2:50)さんと銀杏BOYSの峯田さん。

当たり前だけど江頭さんはいつものタイツ姿ではなく、ジーンズにライダーズジャケットを身にまとい、帽子も被っていた。

お洒落な姿でいつもと雰囲気の違う江頭さんが「何ゆっくりしてるんだよ、イノマー」と声を掛けたときの表情がとても優しく見えて、バラエティでテンションを上げているときとのギャップに涙が出そうになった。

ちなみにイノマーさんが亡くなられたのは2時50分である…。

 

 峯田さんは番組中に何度も登場していたが、イノマーさんは峯田さんのことが大好きだったらしい。

危篤と聞き、急いで駆け付けた峯田さんに、昏睡状態で意識のないイノマーさんがベッドから足を絡めるように抱きつこうとするシーンは見ていて胸が熱くなった。

 

そして、正確には覚えていないのだけれども、最初のときのインタビューで、ヒロさんが「彼はやることを全部やって死んでいった」みたいなことを話していた。

僕はこれをイノマーさんが立っているのもやっとの体で、3000人を動員したオナニーマシーン最大のライブをやり遂げたことを言っているのではないかと思っていた。

 

でも、最後まで見終わったとき、それはちょっと間違って捉えていたんじゃなかったかと感じる。

亡くなる直前に"デカイことをやり遂げた"という意味ではなく、彼は重病にも関わらず、最後まで"普段と変わらず、自分がやりたいことをやり抜き通した"という意味なのではなかったかと…。

 

番組の終わり際、一周忌の後に再びイノマーさんの部屋でインタビューが行われていた。そこでイノマーさんの書いた日記が出てくる。日記にはイノマーさんの本音が漏れていた。

これも正確には覚えていないのだけれども、「病気が夢であって欲しい」とか、「本当に辛いのはヒロさんだ」とかが書いてあった。

 

彼が人に見せてこなかった弱音と、やっぱりそこでも彼の優しさが出ていたんだけど、

「自殺するヤツはオイラに魂を寄こせ」

この言葉に頭をぶん殴られらたような気がした。

 

イノマーさんは心の強い方だったとは思うが、普通に傷つき、普通に苦しんでいた。

それでも、自分がやりたいことをやり抜くために、難しい病気と戦い、最後まで生きようとしていたのだろう。

病気になって何か特別なことをやろうとしていたのではなく、もし病気になっていなかったら、やっていただろう普通のことをやり続けようとしていたんだと思う。

 

もちろん、これは僕の解釈なのでまったくの勘違いかもしれない。

知り合いでも、ファンでもない僕が語るのはおこがましいかもしれない。

それでもあの番組を見たら、やっぱり心が打たれる。多くの人がそうだったんだろう。

生きることの尊さをイノマーさんから改めて学んだ。

 

ドキュメンタリーはフィクションと違い、ただ人を涙させて終わるだけであってはならない。

 

ゲストに来ていた香取慎吾さんが「人生観を変えてしまうVTRだった」と語ったように、真のドキュメンタリーとは人の考え方や価値観にインパクトを与えてくれるものなのだ。

 

だから僕は他の多くの人にこの番組を見てほしいし、彼の存在、彼の生き様を知って欲しい。

何よりイノマーさんの大事な仲間の方々が作り上げた番組なので、決して感動のための過剰演出などはない。

必ず何かを感じられる番組だと思う。

曲をよく知らないミュージシャンのことを誰かに紹介したいと思ったのは、イノマーさんが初めてかもしれない。

 

最後に

オナニーマシーンのレーベルの担当者が綴ったイノマーさんの癌の奮闘記がある。僕が紹介した話もこちらには詳しく書かれてるので、気になったらぜひ読んでいただきたい。

 

rooftop.cc

 

今回は記事を通して、ドキュメンタリー番組の意義についても考えさせられる機会になった。

僕と同じような人に何か考えるきっかけを与えることができたのなら、とても嬉しく思う。

 

おわり