安くておいしい食事を食べられる貧しいニッポン
今回はめずらしく経済のことを書いてみたい。いや、" めずらしく"ではなく、"はじめて"が、きっと正しい。
なぜなら最近、日本のデフレに関する記事ばかりが妙に目に付く。 無意識に自分で記事を選んでいるだけかもしれないが、 もしかしたら同じような人がいるかもしれない。だから、試しに書いてみよう。
と、言っても識者ではない素人が書くことなので、多少の間違いなら大目に見て欲しい。
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あなたは、日本の飲食店がなぜこんなにも安くておいしいのか、その理由を考えたことがあるだろうか?
そんな問い掛けをしていたのが、こちらの記事。
メディアは安く売れる理由は報じずに、激安グルメを特集したがる。それを見て、安くておいしいことが当たり前かのように手放しで喜ぶ消費者。和食店の女将である筆者は、安さを疑う人がもっと増えて欲しいと訴える。
飲食店ではないが、同じ食品の仕事に携わる者として、共感せずにはいられなかった。記事に書かれていたこの辺りなんかはまさにその通り!と思ってしまう。
かといって、自分を犠牲にすることが美しい、みたいな見せ方も同業者としては非常に困ります。
これは増税や材料費が高騰したりするとよく出てくるパターンです。店主の涙ぐましい努力によって価格を据え置き〜みたいな文脈で語られます。
涙ぐましい努力をしなければならない社会の現状への問題提起ではなく、努力の美化という形です。
こうしたコンテンツを目にした消費者は、ビール一杯、周辺のお店より10円でも高いと文句を言うし、材料の相次ぐ高騰に耐えかねて値上げすると非難する。
心当たりならある。
創業ウン十年の老舗店で主人の口から、創業当時と価格が変わっていないこと、お客さんのために今後も価格を変えるつもりがないこと、が語られるパターン。テレビはお客さんのために身を削る姿勢を必要以上に美しく映したがる。
人の店の考え方に意見すべきでないことはわかっている。けれども、その美談に他の店が足を引っ張られてしまうのだとしたら、やはり黙ってはいられない。
値上げをせず、利益が先細っていく店が、はたして本当に良いサービスを提供し続けることができるのだろうか?
お金が掛かるのは食材だけではない。建物や設備を維持していくためにもお金は要る。電気や、ガスや、水道代だって、値上がりがある。
良いサービスを続けるためにも本来はちゃんと一定以上の利益を得ることが必要なはずである。
記事に書かれていたように、中小の店の多くは時間や労力、従業員の給料など、色んなものを犠牲にして安い価格を維持している。犠牲がないと成り立たないのだ。
利益率の高い業界なら良いのだが、飲食店の業界は総じて利益率が低い。営業利益率は平均で5%程度と聞く。
今後、QR決済に約2%の手数料が有料化されるようになれば、利益は半分ほどになってしまう。これが、コロナ禍でただでさえ経営が厳しくなっている中小の飲食店が置かれている状況だ。
記事を読んだ後にこのツイッターがバズっているのを見てあらためて考えさせられる。
博多ではこのランチ800円 pic.twitter.com/K0LQ7k4LtE
— なみのり₿ (@shineshine2828) August 20, 2021
こんなにも安くておいしいものが食べられる日本は豊かな国なのか、それとも、こんなにも安いサービスが生まれてしまうぐらい日本は貧しい国になったのか?
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元は日本のポップミュージシャンで現在はアメリカでジャズピアニストの大江千里さんが語る記事も読んだ。
大江さんは記事の中で物価の安さの裏側にある日本の賃金の低さを指摘している。先に紹介した記事で、安い理由には従業員の給料などを犠牲にしているという指摘と同じものだ。
日本の物価や賃金は世界の主要国と比較して相対的に下がり続けている。もちろん厳しい価格競争の中で生まれた安くて品質の高いモノやサービスに、いち消費者として恩恵を受けていることは事実だ。
しかし、それに満足していて本当に良いのか?
競争に勝ち残れるのは一握りの企業である。モノが売れないから、価格を下げ、企業の業績は悪くなり、従業員の給料が安くなる。すると消費者の購買力が落ち、余計にモノは売れなくなる。これが日本の陥っているデフレスパイラルだ。
このままでは日本人は世界から良いモノを買えなくばかりか、いつしか海外旅行に行けなくなる日がくるかもしれない。
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誰かの記事の紹介ばかりで、つい"他人の褌で相撲を取る"恰好になってしまったが、日本人はいいかげん『値上げイコール悪』というマインドを変えなくてはならない。
しかし、人間のマインドは簡単に変わらない。ずっと前からわかっていることなのに変わってこなかった。だからこそ、今回紹介したような記事がきっかけで、少しでも変わるきっかけになってくれれば良いと思っている 。自分も含めて。
あなたは、日本の飲食店がなぜこんなにも安くておいしいのか、その理由を考えたことがありますか?
おわり