輝きを忘れるな!2011年 AIR JAMから10年
もしかしたら俺は将来スターになって輝かしい人生を歩むかもしれない。それは夢と呼べるようなものではなく、子供の頃に抱いた根拠のない幻想に過ぎなかった。生まれつき何かの才能があるわけではなく、人並み外れた努力をする根性もない。そんな男に特別な未来が訪れることはなく、待っていたのは平凡な日々。
My life is a normal life
オレの暮らしは何の変哲もなくてWorking day to day
毎日働きづくめで余裕なんてないNo one knows my broken dream
俺にも叶わぬ夢があったなんて誰も知らないI forgot it long ago
もうずっと昔に置き忘れてきたけど
Hi-STANDARD「STAY GOLD」より
作詞:横山健・難波章浩
この曲を聴くと心がハイになる。まるで自分が無敵になったような気分だ。頭がおかしいと思われるかもしれないが、案外そうした経験は誰にでもあるんじゃないだろうか。
音楽に限らず、スポーツもそうだし、絵を描いているときや本を読んでいるときもそうかもしれない。大好きなことに熱中していると、一瞬でも現実から切り離され、別世界に入ったような感覚になるときがある。
2011年9月18日。東北にエールを届けるため、ハイスタが開催したAIRJAM2011。
今年でちょうど10年が過ぎた。平凡なりに色んなことがあった10年だったが、あのときほど無敵感を味わった日はない。
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当日は9月中旬だというのに真夏のような暑さだった。でも、ノープロブレム。なにせ11年振りに復活するハイスタが見られる。朝からテンションはMAXだ。
会場の横浜スタジアムに着くと、自分と同じような格好をした元若者たちで溢れている。短パンにバンドTシャツ、そしてスケボーシューズ。野球のスタジアムとはおよそ似つかわしくない。
「KYONO(THE MAD CAPSULE MARKETS)はWAGDUG FUTURISTIC UNITYで出るんだろ?」
「オイオイ、あいつ(シャカゾンビの)オオスミじゃね?KGDR(キングギドラ)のTシャツ着てるし 笑」
すれ違った4人組が大柄な男を指して茶化していた。一般人はわからないマニアックなネタが共通言語のように飛び交う。同じ世代に生まれ、偶然にも同じような価値観を持った名前も知らない仲間たち。まるで同窓会に来たような懐かしさがそこにはあった。
オークションで手に入れた一枚二万円のプレミアムチケット。ポケットの中で軽く握りしめ、入場の列に向かった。
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AIRJAMの開催が発表されたのは震災から僅か1ヶ月後の4月。もはや関係は修復不能に思われたハイスタの3人が一緒に写った写真をTwitterに投稿した。
話題になるのは当然のこと。しかも、復活に用意されたステージは活動休止前の最後のライブとなった2000年と同じAIRJAM。チケットの事前予約には3万人分の席に対して20万件以上の申し込みが殺到したらしい。
当時はまだチケットの不正転売に関して法律が整備されておらず、システム的にも十分な対策が施されていなかった。(翌年からはすぐに不正転売を防止するための措置が取られることになる)
オークションにチケットが出回るのは自然な流れで、出品者の「行けなくなったのでお譲りします」という言葉を信じ、友人の分と合わせて2枚のチケットを購入した。
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開演間近になりステージの上に難波さんが登場する。
"俺はこのフェスが、ラウド・ロック/ラウド・ミュージックで日本最高峰のイベントだと思ってます。"
マジで「ウォー!!!」だった。興奮で腹の底から雄叫びを上げる。
ウグイス嬢のアナウンスに合わせてスタジアムの電光掲示板に当日のアクトが表示された。すると会場は再び歓喜の雄叫びを上げる。
スタジアムのマウンドに目をやれば、巨大なバンクか設置されていた。スケーターやBMXライダーとのコラボもAIRJAMの魅力の一つだ。
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トップバッターはHUSKING BEEのイッソンとNUMBER GIRLの田淵ひさ子の磯部正文BAND。過去にも出演経験があるメンツではLOW IQ 01 & MASTER LOW、WAGDUG FUTURISTIC UNITY、SCAFULL KING、BRAHMAN。
他には2000年以降に頭角を現してきた10-FEET、the HIATUS、マキシマム ザ ホルモン。
参加したバンドの中ではルーキー的位置にいたFACT、Pay money To My Pain。
ラウドロック以外からはKGDR、TURTLE ISLAND。
海外からもMurphy's Law、NOFXのファット・マイク弾きいるMe First and the Gimme Gimmesが参加した。
ラインナップが豪華過ぎて、休んでいる暇がない。それぞれのバンドが被災地へのエールとハイスタへの思いを込めて最高のパフォーマンスを見せてくれた。中でもBRAHMANのTOSHI-LOWさんのMCは印象深い。彼が話している間、スタジアムは静まり返り、観客全員が彼の一言一言を聞き入っていた。
「諦めなくて良かった。おれ、諦めねえよ。被災地に笑顔が戻ってくることも、放射能の街に家族の団らんが戻ってくることも、諦めねえ」
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ついにハイスタの出番。観客のボルテージは上がり、スタンド席ではウェーブが巻き起こる。司会のブライアンが名前を叫ぶとついに3人がステージ上に現れた。
MY HEART FEELS SO FREE
SUMMER OF LOVE
CLOSE TO ME
etc …
何度も聞いた名曲がスタジアムに鳴り響く。言うまでもなく、ハイスタのライブは最高だった。飢えに飢えて11年間に溜め込んだファンのパワーだって半端ない。スタジアムは確かに揺れていた。
名残り惜しくも、翌年の東北での開催に向けたメッセージを残し、AIRJAM2011は閉幕した。
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後から雑誌のインタビューやドキュメンタリー映画を見て、あのときハイスタがいかに無理を押して、ステージに上がっていたかを知った。まさに被災地のためだったのだろう。バンドとしては本来の体をなしていないままのステージだった。素人にはわからなかったが、納得のいくパフォーマンスとは程遠かったのもしれない。
状態でいえば、この後の2012や2016、特に2018は良かったと聞く。けれども1ファンとしてはあの日は特別で、今でもあの日を超えて興奮した日はない。アーティストのベストとファンのベストは必ずしも一致しないのだと思う。
I won't forget
オレは忘れない
when you said to me ”stay gold”
お前が「いつまも金ピカのままで」言ったこと
I won't forget
忘れないよ
always in my heart ”stay gold”
いつも心の中に
Hi-STANDARD「STAY GOLD」より
作詞:横山健・難波章浩
『あの日があったからがんばれる』みたいなことは人生で滅多にない。けれども、あの日は自分にとってそういう日だった。
"STAY GOLD(いつまでも金ピカのままで)"
僕のような平凡な男が扱えるような言葉ではない。だが、きっと死ぬまで忘れることない、無敵になるための言葉なのである。
おわり