はじまりここから

下手の横好きではじめたエッセイ風のブログです。平凡な日々の中で感じたことを少しだけエモく綴っています。ジャンルはニュースや音楽など。

IKEAのビストロで椅子取りゲーム

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先日、出張で郊外の駅に降りた際、IKEAに立ち寄った。と言っても、仕事をさぼって家具を探しに行ったわけではなく、次の商談までに少し時間が空いたので、椅子に座って仕事をしたかった。

IKEAにはレストランとは別に、ビストロと呼ばれるセルフ式のフードコーナーがある。券売機で食券を購入すれば、ホットドッグ100円、フライドチキン150円、ドリングバー100円、ソフトクリーム50円などなど、軽食が格安で食べられる。

www.ikea.com

格安なのは食事で利益を取るつもりはないのだろう。買い物で疲れたお客のためにビストロはレジの裏側にある。

しかし、そのレジ裏は本来の客ではない者にとって実は都合が良い。IKEAを利用したことがある人はわかると思うが、入口からわざわざ迷路のようなコースを通らなくても、出口側からレジ裏に直接回ることができる。

もちろん僕だって、休憩だけで安く済ませようなんてせこい行為は本意ではないが、駅の周りに喫茶店はおろか、時間を潰せるような商業施設がまったくないのだ。かと言って、仕事中にショッピングを楽しむわけにもいかないし、買ったものを持ち歩くわけにもいかない。だから仕方がない。

誰からも聞かれていない言い訳を心の中で呟きながら、約2年ぶりにビストロを訪れた。大きく変わった様子はないものの、カウンター席から椅子が外されていた。

カウンターの端が僕のお気に入りだったのに、椅子がないのではもう座ることはできない。一方、椅子が使える1人席はテーブルが狭く、パソコンで仕事をするには少々物足りない。

幸いにも2名掛けのテーブルがいくつか空いていたため、満席にはならないだろうと思い、そのまま席に腰を掛けた。

けれども、その見立ては甘かったらしい。平日とは言え、お昼の時間帯だったこともあり、1人席以外は間も無くしてすべて埋まってしまった。席を探す人たちを見ると、視線を逸らしたくなる。

せめてドリンクと一緒に食事も頼めれば良かったのだが、その日に限って、駅中の立ち食い蕎麦屋で食事を済ませた後だった。前日にモスバーガーに行っていたせいで、ホットドッグやフライドチキンを食べる気分になれなかったのだ。

居心地が悪くなると、すぐにまた言い訳をしたくなる。

『まぁ、待て。周りをよく見てみろ。買い物に来た客の全員が何かを買っているとは限らないはずだ。買い物をしていないのなら実質、自分と変わらないじゃないか。それにあの1人でいる中年の男性はスーツこそ着ていないが、雰囲気的にたぶん同じ仲間だ。』

気を取り直して仕事を再開するも、ある夫婦の出現により状況は一変した。

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僕の席のすぐ側には4名掛けテーブルが2つあり、男子学生のペアと若い男女のカップルが各テーブルに向かい合わせで座っていた。2つのテーブルは壁側の長椅子が一つで繋がっていて、テーブルの間に人1人分ぐらいのスペースが空いている。

そこに席を探していた年配の婦人が突然現れ、長椅子の空いているスペースに座り始めたのである。しかも、許可も取らず、持っていた飲み物を黙って学生側のテーブルに置いたのだ。

その場にいた全員が「え〜!」だった。

いくら感染者が減っているとは言え、まさかこのご時世に他人と相席なんて、鋼のメンタルである。そもそもコロナ禍ではなくても、できるだけ他人と相席なんてしたくない。

さらには学生に向かって「あ、全然、気にしないでください。ごゆっくりして」と一言。学生たちは困った顔で言葉を返せない。

後からやってきた婦人の旦那さんも自分の妻が取った行動に唖然としている。「あなたも座らせてもらいなさいよ」と言われ、「いや、でも、お前…」と明らかに動揺している。旦那さんのメンタルは平凡らしい。

すると、いたたまれなくなったカップルの方が「こちらの席を使ってください」と声を掛けた。婦人は申し訳なさそうにしていたが、旦那さんはもっと申し訳なさそうだった。

カップルのおかげで、夫婦と隣のテーブルの学生、そして、密かに僕の気持ちも救われた。

しかし、話はこれで終わりではない。このままでは婦人が単に図々しいだけの人に思われてしまう。

しばらくすると、若い夫婦がやってきた。押していたベビーカーをテーブルの横に停めて2名掛けのテーブルに座る。

若い夫婦が狭そうに見えたのだろう。いや、先程、半ば強引に席を譲らせてしまったことを後悔していたのかもしれない。もしくは他人から受けた恩は自分たちも誰かに施すべきと考えたのだろう。素晴らしい考えだ。

隣で年配の夫婦がソワソワし始めた。相談の結果、自分たちの席を譲ることに決めたらしい。飲み物を持ったまま席を立ち、若い夫婦に声を掛けた。

「よかったら、あちらの席を使って」満面の笑みで。

すると、若い夫婦は「ありがとうございます。でも大丈夫です」と一言。

本日2回目の「え〜」だった。もちろん、若い夫婦が断ったのはおかしなことではない。

しかし、事情を知る僕としては、そこでは好意を素直に受け取って欲しかった。声を掛けた夫婦も断られるのは誤算だっただろう。今さら元いた席に引き返すわけにはいかず、行き場を失った夫婦はブツブツ何かを言いながらその場を去っていった。

なんだろう。なんなんだろう、この気持ち。なんだかスゴくいたたまれない。

僕が2名掛けのテーブルにさえ座らなければ最初のカップルも、空回りした年配の夫婦も、ゆっくりくつろぐことができたのに。悪いのは全て僕。

 

✳︎

 

罰の悪い思いをしたが、それでも仕事だけはキッチリこなしかった僕はその後10分ぐらい粘って席を立った。

そんなわけで、IKEAのビストロはすごくお勧めだけど、ビストロだけを利用しようなんて考えは本来のお客に迷惑をかけるかもしれないのでやめることを勧めておく。

 

ホント、すいませんでした。

 

おわり