はじまりここから

下手の横好きではじめたエッセイ風のブログです。平凡な日々の中で感じたことを少しだけエモく綴っています。ジャンルはニュースや音楽など。

正義のブタと正論を振りかざす男

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日本人なら好きなアニメヒーローの一人や二人いても不思議はない。昭和の頃から世代ごとに愛されてきたヒーローがいる。

ただし、ヒーローと一言でいっても性格や精神性は様々だ。昭和の孫悟空と令和の竈門炭治郎ではタイプが違うし、平成の碇シンジのように特殊なタイプもいる。

憎めないブタ

今まで誰にも話しことはないが、僕は『クレヨンしんちゃん』に登場するぶりぶりざえもんが好きだ。子どもと一緒にアニメを見ているうちに、彼の魅力にハマってしまった。

知らない人のために説明しておくと、ぶりぶりざえもんは主人公の野原しんのすけが考案したキャラクターである。設定は『救いのヒーロー』。見た目は紫色のタイツを穿いたブタだ。

この顔に見覚えはないだろうか?(画力が無さすぎて涙が出てくる)

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実はぶりぶりざえもんはおよそヒーローには相応しくない。性格は極めて自分本意で金にがめつい。"常に強い者の味方"が彼のポリシーであり、ピンチになれば平然と仲間を裏切る。最低のブタ野郎だ。

それでも彼は類い稀な強運の持ち主で、意図せず敵を倒し、ヒーローさながらトラブルや事件を解決してしまう。どんなに憎らしくても、結果にはコミットするブタなのだ。

憎らしい男

先日、社内で営業を集めた会議が開かれた。システムの入れ替えに伴い本社の人間から大事なお願いがあるとのことで管理職は参加が義務付けられた。オンラインではあったが、かなりの人数が集められた。

それにも関わらず、事前の説明や資料は不十分で、とにかく段取りが悪い。始まってみれば議論はたびたび本題から脱線し、ついには一部の営業からヤジまで飛ぶ始末。

「ムリでーす。そんな暇じゃありませーん」ガキみたいなセリフがスピーカーから聴こえてくる。みっともない。地方の中小企業など所詮はこのレベルかと思いながら聞いていたが、大企業でもたぶん同じなようなことは起こり得るのだろう。政治家を見てればわかる。肩書きが立派でも、心が大人とは限らない。

とは言え、原因をつくったのは本社側の人間だ。そもそも主催した2人の男は営業からの評判がすこぶる悪い。やることは三流のくせに態度だけ一流な男と、やる気がなさ過ぎて人に仕事を押し付けることばかり考えている男。2人からのお願いでなければ、会議があれほどまでに紛糾することはなかったはずである。

そして、事件は翌日に起きた。会議中にヤジを飛ばしていた男の一人が、本社の人間に対して痛烈な批判メールを送りつけたのである。メールは会議の参加者全員にも送られ、事態は場外乱闘戦へともつれ込んだ。

『どこを見て仕事をしている。客の方を見て仕事をしろ!』正義のヒーロー気取った男が皆の意見を代弁してやると言わんばかりに正論を振りかざす。

だが、僕は彼が決してヒーローなんかではないことを知っていた。彼はいわゆる劇場型営業により、これまでも幾度となく社内の人間に同じ行為を繰り返してきた。つまり常習犯である。自分のミスは棚に上げて、他人のミスは容赦なく非難する。単に人前でマウントを取りたいだけの憎らしい男なのだ。

正論とは

彼の芝居じみた行動に周りの人間はうんざりしていたが、なぜか本人だけはそれに気付かない。今回は特に多くの人数を巻き込んでいだけに、なおさら気合が入っているようにも思えた。しかし、この戦いは案外早くケリが付くことになる。

本社側の人間はすぐさま手持ちの中で一番強いカードを切った。劇場型男がメールを送ると、返してきたのは送った相手ではなく、相手の上司だった。劇場型男よりも上位の人間である。メールには丁寧な言葉が並べられていたが、明らかに彼の言動を戒めるような含みを持たせていた。

さて、劇場型男はどうする?人前で啖呵を切ったのだ。どうせなら一回ぐらい抵抗してみせてほしい。が、あまりにアッサリと振り上げた拳を下げてみせた。潔く「承知しました」と、吐いた唾を飲み込んだのである。

そう、それはまるで「私は常に強い味方だ」と言わんばかりに。プライドもへったくれもあったもんじゃない。所詮、自分を良く見せるために正論を振りかざす人間はその程度だということだ。正論とは人を傷つけるために使うものではない。人を守るために使うものである。

もし彼がぶりぶりざえもんなら類い稀な強運でこの状況を打破していたであろう。だが、もちろん彼はぶりぶりざえもんではない。せめてアニメのような笑い話になれば良いが、笑いは笑いでも起きたのは苦笑いだけだった。

今週のお題「肉(にく)」。にくらしい男より、にくめないブタが僕は好きだ。

 

おわり